「自分の見た目が、どうしても好きになれない」 「学歴の話題になると、胸のあたりがざわつく」 「弱みばかりに意識が向いて、一歩を踏み出せない」
そんな苦しさを抱えていないでしょうか。
「コンプレックス」という言葉は、毎日のように耳にします。ふだんは「劣等感」とほぼ重ねて使われていますが、心理学がもともと指していた意味は、それとは少し離れています。この食い違いを知ると、自分の苦しさを違う角度から捉え直すきっかけになります。
記事では、コンプレックスの意味と心理学での成り立ち、劣等感との違い、主な種類、そして縛られないための考え方をまとめました。
コンプレックスの意味|日常語と心理学用語のズレ
口にする「コンプレックス」と、心理学がいう「コンプレックス」は、指す中身が食い違っています。
日常での使われ方
会話のなかでは、そのほとんどが「劣等感」の代わりに使われます。「見た目にコンプレックスがある」「学歴コンプレックス」といった言い回しは、人より見劣りすると感じている部分をあらわしています。
心理学での本来の意味
学問としての心理学では、もっと幅の広い言葉です。用語解説によると、コンプレックスとは、気持ちや欲求、頭に浮かぶ考え、記憶といった心の中身が、ある感情を中心にもつれ合ってできたまとまりを指します。この言葉を世に広めたのは、スイスの心理学者ユングだとされています。※
ユングは、言葉を連想させる検査を重ねるなかで、この考え方を打ち出しました。コンプレックスは本人の無意識のなかに抑え込まれている(抑圧されている)ため、自分でもうまく説明できません。それでいて、気づかないうちに感情を大きく揺さぶってくる、と説明されています。
もともとの意味をたどると、コンプレックスは劣等感とだけ結びつくものではないとわかります。胸の奥にある、いくつもの感情がからまったかたまりのようなものです。
なぜ「劣等感」の意味で広まったのか
コンプレックスには、エディプス・コンプレックスや劣等コンプレックスなど、いくつもの型があります。劣等感は、そのなかの一種類(劣等コンプレックス)でしかありません。
「劣等感」の意味が日本で根づいた背景には、二つの流れがあります。心理学者アドラーの考え方が受け入れられやすかったこと。そして「劣等コンプレックス」という発想が特に浸透したこと。この二つが合わさって、「コンプレックス=劣等感」という用法が定着しました。とはいえ、ユングの定義では、この二つは同じものではありません。※
コンプレックスと劣等感の違い
両者を切り分けると、自分の状態が見えやすくなります。
劣等感は、コンプレックスの一部分
コンプレックスは、心の奥でいくつもの感情がからまったかたまりを指す、大きな概念です。対する劣等感は、人より自分が下だと感じる気持ちのことで、その大きな枠に含まれる一部分にあたります。
劣等感そのものは、悪くありません
劣等感は、前に進む力の源にもなります。学歴に引け目を感じていた人が、その悔しさを跳ね返して事業を成功させ、世間から一目置かれる。こうした話は、いくらでも見つかります。足りなさを埋めようとする気持ちが、上を目指すエネルギーへ変わった例です。
「今よりこうなりたい」と願うとき、その裏には必ず現在地とのギャップがあります。そのギャップに気づけること自体は、あなたのなかにある向上心のあらわれです。劣等感を深掘りしたいなら、自分が嫌い・自己肯定感が低いときの原因と克服方法も参考になります。
つまずくのは、こじらせたとき
引っかかるのは、劣等感を持つことそのものではなく、それに縛られて身動きが取れなくなることです。劣等感を口実に挑戦を避けたり、投げやりになって自分を痛めつけたり。そういう考え方のくせに気づき、少しずつ手直ししていくことが大事だとされています。
「気にしなければ済む」なら、誰も苦労しません。だからこそ、付き合い方を知ることが、現状を動かす糸口になります。意識できないところにしまい込まれているぶん、「どういうわけか、この話になると落ち着かない」という反応の奥に、自覚のないコンプレックスが潜んでいることもあります。
コンプレックスの主な種類
コンプレックスの型は、実に多彩です。ふだん使いの俗称も多いので、自分の傾向をつかむ手がかりとして眺めてみてください。
日常でよく使われるもの
- 容姿へのコンプレックス(見た目についての引け目)
- 学歴コンプレックス(学歴についての引け目)
- 能力へのコンプレックス(仕事や勉強の力についてのもの)
- 経済的なコンプレックス(収入や暮らし向きについてのもの)
どれも、いわゆる「劣等感」型のコンプレックスにあたります。
心理学で語られるもの
- 劣等コンプレックス(引け目を言い訳にして、やるべきことから逃げること)
- エディプス・コンプレックス(フロイトが唱えた、幼い頃の心の動き)
- マザーコンプレックス(母親への強すぎる執着を指す俗称)
ちなみに、母親への執着を指すマザコン、父親への執着を指すファザコンといった呼び名は、会話ではおなじみですが、きちんとした学術用語ではありません。
「善玉」にも「悪玉」にもなる
コンプレックスは、いつも悪者というわけではありません。引け目をバネにして努力を後押しするプラスの側面(善玉)もあれば、縛られて投げやりや自己否定に沈むマイナスの側面(悪玉)もあります。中身が同じでも、受け止め方しだいで働きは逆を向きます。狙いは、消し去ることではなく、どう連れ添っていくかにあります。
縛られないための考え方
コンプレックスを消し去る必要はありません。狙うのは、それに振り回されず連れ添える状態です。一度に全部やろうとせず、できそうなものから試してみてください。
「消す」ではなく「連れ添う」と捉える
きれいに消そうとすると、消えないたびに気持ちが沈みます。比べる相手がいる以上、引け目は湧いてくるものだからです。手が届くゴールは、振り回されずに連れ添える状態のほうです。
弱みを、直す対象にしない
いわゆる短所(弱み)を「なくすべき欠陥」とみなすと、自分にダメ出しをし続けることになります。短所は、角度を変えると長所(強み)の裏返しになっていることも珍しくありません。心配性は、慎重で下準備を欠かさない性質。決めきれなさは、あれこれ多面的に考えられる性質。気にしすぎは、人の心の機微に気づける性質。同じ中身でも、光の当て方で意味が反転します。
「これからの動き」に目を向ける
コンプレックスをじっと見つめているだけだと、足が止まります。「自分はダメだ」で終わらせず、「では、どうしたいのか」まで話を進めてみてください。何かに手を動かしていると、「今はこれに取り組み中だ」と割り切りやすくなります。
比べる相手を入れ替える
よその誰かと比べる作業には、ゴールがありません。上を見れば、いつでも誰かがいるからです。物差しを「昨日の自分」に置き換えると、比較にようやく終点ができます。
完璧をゴールにしない
すべてを直して、欠けたところのない自分になる必要はありません。引け目を抱えたまま毎日を過ごしている人が、圧倒的多数です。「弱みがあっても平気」という土台に、まず立ってみてください。
「どうして引っかかるのか」を掘る
なぜ、そのコンプレックスがこれほど気にかかるのか。奥をのぞくと、昔の出来事や、誰かに言われた一言がひそんでいることがあります。おおもとが見えてくると、縛られ方がゆるんでいきます。親との関わりに心当たりがあるなら、アダルトチルドレン(AC)とは?カウンセリングの効果と相談先も参考になります。
年月をかけて積もった感覚は、ほどけるのにも同じだけの時間がいります。「一週間続けたのに何も変わらない」と沈む必要はありません。むしろその沈み込みが、コンプレックスに縛られているあらわれでもあります。
こんなサインが出たら医療機関へ
コンプレックスからくる苦しさが、心の不調へ広がることもあります。次のようなサインが出ているときは、我慢しないでください。
- 気持ちの落ち込みが2週間以上続いている
- 眠れない、または朝起き上がれない日が続く
- 食欲が落ちる、または過食が止まらない
- 弱みのことで頭がいっぱいで、他が手につかない
- 人と関わること自体が、つらくなってきた
- 「消えてしまいたい」という考えが、ふとよぎる
気の弱さのせいではなく、心がぎりぎりまで張りつめているサインです。心療内科や精神科といった窓口を頼ることが、回復に向かう一歩になります。診てもらったからといって、いきなり薬を出されるわけではありません。まずは話を聞いてもらうだけでも大丈夫です。心と体の限界サインは、精神的ストレスが限界を超えるサインと解消法でも詳しく紹介しています。
見た目への引っかかりが並外れて強く、暮らしに支障が出ているようなときは、専門的なケアが要る場合もあります。見きわめられるのは医師なので、つらさが大きいときは相談してみてください。
苦しいときの相談先
窓口ひとつで何もかも片づくわけではありません。中身によって使い分けられます。
- 医療機関:寝つけない、食べられない、気持ちの沈みが2週間以上長引くときは、心療内科や精神科へ
- 自治体の相談窓口:各自治体の保健センターのほか、『こころの健康相談統一ダイヤル』でも無料の相談を受け付けています
- 学校・職場の窓口:学生相談室、産業医、社内の相談先など。まわりの状況が関係しているときは、その調整につながる場合もあります
どこを頼ればよいか迷うなら、ストレスの相談先の選び方と解決のヒントも読んでみてください。
一人で抱えず、人に話すと軽くなる理由
コンプレックスには、一人で抱え込むほどふくらみやすい、という性質があります。
意識の届かないところにしまい込まれた部分は、自分だけでは見通せません。「なぜ、この話でここまで揺れるのか」という問いに、自力で答えを出すのは難しいものです。誰かと言葉を交わしながらほどいていくと、奥にあったものが少しずつ姿を見せます。
自分が弱みと決めつけている部分が、そもそも本当に弱みなのか。一人で結論を出すと、否定的なほうへ傾きがちです。第三者の目が入ると、その決めつけを見直せることがあります。「こんなことで悩んでいて」と口にしても、とがめられることはありません。利害のない相手だからこそ、そのまま打ち明けられます。
「カウンセラー」は資格がなくても名乗れますが、公認心理師(心理職で唯一の国家資格)は国家試験に受かった人だけが名乗れます。あなたを責めたり急かしたりせず、必要なときは医療などの支援にもつなぐ視点を持っています。
ただし、「消えてしまいたい」という考えが頭から離れないときは、迷わず次の窓口を頼ってください。
・こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556
・よりそいホットライン:0120-279-338
・厚生労働省「まもろうよ こころ」:https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/
弱みへのとらわれを相談できる|オンラインカウンセリング「Kimochi」
「弱みへのとらわれを、誰かに聞いてほしい」 そんなときに頼りやすいのが、オンラインで相談できるKimochiです。Kimochiでは国家資格を持ったカウンセラーが、悩みの整理まで丁寧に寄り添います。※18歳以上の方が対象です(18〜19歳は保護者の同意が必要です)。
オンラインカウンセリング「Kimochi」の特徴
- ①国家資格を持つカウンセラーのみが在籍
Kimochiには、国家資格『公認心理師』を持つカウンセラーのみが在籍しています。資格や経験を持つ専門家が、気分の重さの背景にある気持ちを丁寧に整理する手伝いをします。
- ②完全オンラインで匿名・顔出しなしOK
自宅にいながらビデオ・チャットで相談できるため、人目を気にせず、安心して利用できます。
- ③ライフスタイルに合わせて選べる3つのプラン
月1回30分の利用から、月4回60分でしっかり相談できるプランまで、自分のペースに合った形を選べます。初月割引もあるため、まずは試してみたいという方にもハードルが低くなっています。
- ④24時間予約可能・ビデオもチャットも対応
仕事や家事の合間でも予約しやすく、声を出して話すのが難しいときはチャットでの相談も可能です。
コンプレックスのことは、理由をうまく言えないまま話し出しても問題ありません。言葉を探しながら、一緒に少しずつほどいていけます。
もし体調にはっきり影響が出ているときは、医療機関への相談を先に考えてください。
よくある質問(FAQ)
Q1. コンプレックスとは、どういう意味ですか?
日常では「劣等感」の代わりに使われますが、心理学ではもっと幅の広い言葉です。心理学では、気持ちや欲求、記憶、思いつきといった心の中身が、ある感情を中心にからまったまとまりを指します。ユングによって広まった概念で、胸の奥にある感情のかたまりのようなものです。※
Q2. コンプレックスと劣等感は、同じですか?
厳密には別ものです。劣等感は、コンプレックスという広い括りのなかの一部分にあたり、劣等コンプレックスと呼ばれます。日本ではアドラーの考え方が浸透した影響で同義に使われがちですが、ユングの定義では一致しません。
Q3. コンプレックスには、どんな種類がありますか?
見た目、学歴、能力、暮らし向きなどについての、いわゆる引け目型のものがあります。心理学の分野では、劣等コンプレックスやエディプス・コンプレックスなどが知られています。マザーコンプレックスなどは会話ではおなじみですが、正式な学術用語ではありません。
Q4. コンプレックスは、悪いものですか?
いつも悪いとは限りません。引け目をバネに努力を後押しする「善玉」の面もあれば、縛られて自己否定へ沈む「悪玉」の面もあります。中身が同じでも、受け止め方によって働きが変わります。
Q5. どうすれば、縛られずに済みますか?
「消す」ではなく「連れ添う」と捉えるところから始めてください。弱みを直す対象にせず、これからの動きに目を向け、比べる相手を昨日の自分に入れ替える。そして、完璧をゴールにしないこと。引け目を抱えたまま生きている人が、圧倒的多数です。
Q6. カウンセリングは、コンプレックスにも役立ちますか?
役立つことがあります。コンプレックスは意識の届かないところにしまい込まれていることがあり、「どうしてここまで気になるのか」は自分では見通しにくいものです。話しながらほどいていくと、奥にあったものが見えてきます。弱みという決めつけを点検する助けにもなります。
まとめ
コンプレックスは、日常では「劣等感」の代わりに使われますが、心理学ではもっと幅の広い概念です。胸の奥でいくつもの感情がからまったかたまりのようなもので、劣等感はそのなかの一種類でしかありません。
そして、劣等感それ自体は悪いものではなく、努力を後押しする力にもなります。つまずきの元になるのは、それに縛られて動けなくなることです。だからこそ、狙うのは「消す」ことではなく、「連れ添う」ことです。
弱みを直す対象にせず、これからの動きに目を向け、比べる相手を昨日の自分に入れ替える。完璧をゴールにせず、「どうして引っかかるのか」を掘ってみる。すぐには変わりませんが、少しずつゆるめていけます。
ただし、弱みのことで頭がいっぱいで手につかない、落ち込みが2週間以上続くときは、我慢せず医療機関に相談してください。引け目を抱えたまま、それでも毎日を送っている人がほとんどです。そのとらわれを、一人で抱え込まなくて大丈夫です。
※出典:コトバンク「コンプレックス」(日本大百科全書)
※出典:コトバンク「エディプスコンプレックス」(日本大百科全書/ブリタニカ国際大百科事典)
※参考:心理学用語集サイコタム「コンプレックス」