「頼まれてもいないのに、気づいたら誰かの世話を焼いている」
「相談されるとうまく断れなくて、つい自分の予定をあとまわしにしてしまう」
「助けているつもりなのに、どういうわけか、いつもへとへとになっている」
そんな毎日が、続いてはいませんか。
人を助けたいという気持ちそのものは、とても大切なものですよね。
でも、それが「助けずにはいられない」に変わってしまうと、少しずつ自分がすり減っていきます。
そして何よりつらいのは、その状態が、周りからは「優しい人」として褒められてしまうことなんですよね。
そのせいで、手を引くことも、「しんどい」と口にすることも、だんだん難しくなっていきます。
この記事では、次のことをお伝えしていきます。
- メサイアコンプレックスとは何か
- そうなりやすい人の特徴と、その背景
- 抱えやすい生きづらさ
- 自分を大切にしていくための、小さな練習
その前に、「人を助けるのをやめたら、自分には価値がなくなってしまうんじゃないか」という思い込みを、いったん脇に置いて読んでみてください。
メサイアコンプレックスとは
メサイアコンプレックスとは、「自分が誰かを救わなくては」という強い思いに、突き動かされてしまう心の状態を表す言葉です。
「メサイア」は救世主という意味で、「自分には人を導いて救う特別な役割がある」と感じ、そのために動こうとする傾向を表しています。強くなると、「人の役に立てない自分は、良い人間ではない」といった思い込みにまでつながることがあります。
医学的な診断名ではありません
まず、ここを知っておいてもらえたらと思います。
このメサイアコンプレックスは、いわゆる俗称で、病気として決められたものではありません。精神科の診断基準にも、病名としては出てきません。
なので、「自分はメサイアコンプレックスだ」と決めつける必要はありません。
自分のなかにある傾向に名前をつけて、少し距離を取って眺めるための言葉、くらいに受け取ってもらえたらと思います。
「優しさ」とは、どこが違うのか
誰かを助けたいと思うこと自体には、何の問題もありません。
分かれ目になるのは、こんなところです。
- 相手が望んでいるか:頼まれていないのに、踏み込みすぎていないか
- 自分が消耗していないか:手を貸すたびに、自分の余力が削られていないか
- 見返りを求めていないか:感謝されないと、腹が立ってこないか
- やめられるか:断ることが、ちゃんとできるか
自然な優しさは、自分に余力があるなかで出てくるものです。
でもこの状態になると、自分の限界を超えても、手を止められなくなってしまいます。
その裏にあるもの
助けることをやめられない背景には、「自分なんて価値がない」という感覚を、「誰かの役に立つこと」でなんとか埋めようとしている、という心の動きがあると言われています。
だから、助けるのをやめられないんですね。
やめてしまうと、自分の価値のよりどころがなくなってしまう気がするからです。
なりやすい人の特徴と、その背景
自分に当てはまるか、確かめてみてください。
これは診断ではありません。自分の傾向に気づくための手がかりとして、気楽に読んでみてください。
あらわれやすい特徴
- 頼まれてもいないのに、つい先回りして手を出してしまう
- 困っている人を見ると、放っておけない
- 断ることが、とても苦手
- 自分の予定よりも、相手の都合をつい優先してしまう
- 感謝されないと、なぜか腹が立つ
- 相手が自立していくと、寂しさや不安を感じる
- 自分のことは、つい後回しにしてしまう
- 弱っている人を、好きになりやすい
育ってきた環境の影響
「しっかり者」として育ってきた
小さい頃から、あまり手のかからない子として見られてきた。家のなかでは、話を聞く役やもめごとをおさめる役を、ずっと引き受けてきた。
そういう役割を長く続けていると、それが自分の存在価値なんだと感じるようになっていきます。
条件つきで、認められてきた
「人の役に立ったときだけ、褒めてもらえた」「言うことを聞いたときにだけ、優しくしてもらえた」。
そんな経験が重なると、「役に立たない自分には、価値がない」という思い込みが、いつの間にか身についてしまいます。
親との関わりに思い当たる節があるなら、毒親の悩みをカウンセリングで楽にする方法も参考になります。
自分をまるごと肯定される経験が、少なかった
存在そのものを認めてもらう経験が少ないと、自分の価値のもとを、どうしても自分の外側に探すようになっていきます。
「何かの役に立っている自分」でないと、ここにいてはいけない気がしてしまう。
自分を責める気持ちが強いと感じるなら、自分が嫌い・自己肯定感が低いと感じるときの原因と克服方法も参考になります。
自分の問題から、目をそらせる
他人の問題に取り組んでいるあいだは、自分自身の課題と向き合わずに済みます。
これはわざとやっているわけではなく、気づかないうちに働くものです。人助けに忙しい人ほど、自分自身のことはずっと後回しになっていた、ということが起こります。
対人援助の仕事をしている場合も
医療、介護、教育、相談の仕事。こうした職種では、助けることそのものが仕事です。
だからこそ、どこまでが仕事でどこからが自分か、という線引きが難しくなりやすい面があります。
抱えやすい、生きづらさ
この傾向があると、日々のいろいろな場面に影響が出てきます。
いつも、疲れきっている
自分の余力を数えずに引き受けてしまうので、常に消耗しています。しかも休むことにも罪悪感があるので、なかなか回復する時間を持てません。
感謝されないと、傷ついてしまう
見返りは求めていないつもりでも、心のどこかでは、やっぱり待っています。
「あれだけやってあげたのに」。そのがっかりが、やがて怒りや自己嫌悪に変わっていきます。
相手を、依存させてしまう
先回りして手を出すと、相手が自分でやってみる機会を、結果的に奪ってしまいます。
そうして相手はなかなか自立できず、あなたも離れられなくなる。助けているつもりが、お互いを縛り合う関係になっていることがあります。
つらい関係から、抜け出せない
相手に問題があればあるほど、「自分が支えなきゃ」という気持ちが強くなります。
そのせいで、どう見ても消耗するだけの関係からも、離れられなくなってしまう。恋愛でおなじパターンを繰り返している場合、この仕組みが関わっていることもあります。
「助けられる側」になれない
自分から人に頼ることはできず、弱音を吐くこともできません。助ける立場から降りてしまうと、自分の居場所そのものがなくなる気がしてしまうからです。
そうして、じわじわと孤立していってしまいます。
自分が何をしたいのか、分からなくなる
他人の希望ばかりを優先していると、自分の感覚が、だんだん鈍っていきます。
何が好きなのかも、何が嫌なのかも、うまくつかめなくなってくる。これは、長いあいだ自分を後回しにしてきたことの、当然の結果でもあります。
自分を大切にする、練習
全部を一度にやろうとしなくて大丈夫です。できるところから、ひとつずつ試してみてください。
そして、これは「人助けをやめましょう」という話ではありません。目指すのは、自分に余裕があるなかで手を貸せるようになることです。
1. 「頼まれたかな?」と確かめてみる
手を出す前に、いちど、ぐっと立ち止まってみてください。
その相手は、そもそも助けを求めているでしょうか。もし頼まれていないなら、それはあなたが自分の判断で始めようとしていることです。やらなくても、誰かに責められることではありません。
2. 3秒だけ、待ってみる
反射的に動いてしまう癖があるなら、ほんの少し間をつくるだけで変わります。
「あ、今、自分は動こうとしているな」。そう気づけるだけで、やる・やらないを選ぶ余地が生まれます。
3. 相手の課題を、そっと返してみる
その問題を解決する責任は、そもそも誰にあるのか。落ち着いて考えてみると、多くの場合それは相手自身の課題です。
手を出さずにおくことは、冷たさとは違います。それは、相手を『自分でどうにかできる人』として信じることでもあります。
4. 断る練習を、小さく始める
いきなり大きな頼みごとを断るのはハードルが高いので、まずは軽いものから始めてみてください。
「今日はちょっと難しいです」。理由をくわしく述べる必要はありません。断ってもだいじょうぶだった、という体験が、次の一歩を後押ししてくれます。
5. 「役に立たない時間」を、あえてつくる
何も生み出さない時間を、あえて持ってみてください。
ぶらぶら散歩する、昼寝する、30分ぼんやりする。はじめのうちは、うしろめたさが出てくるかもしれません。でも、それはごく自然な反応です。その感覚に少しずつ慣れていくこと自体が、練習になります。
6. 自分の「〜したい」を、小さく確かめる
今日は何が食べたいか、どこへ行きたいか、何はやりたくないか。ずっと後回しにしてきた感覚は、少しずつしか戻ってきません。
小さな選択から、自分の好みを確かめていってください。
7. 助けられる側に、回ってみる
人に頼ることを、練習してみてください。ほんの小さなことで構いません。
助けてもらう経験は、「自分には、役に立つこと以外の価値もあるんだ」と感じ直すきっかけになります。
8. 罪悪感は、そのまま置いておく
自分を優先しようとすると、たいてい罪悪感がやってきます。
でも、うしろめたさを感じることと、あなたの選んだことが間違っていることは、まったく別です。「今、うしろめたさが出ているな」と眺めるだけで大丈夫。無理に行動を変えなくて構いません。
気をつけたい、危うい状態
この傾向が強くなると、少し注意したい状況が生まれることがあります。
相手を、支配してしまう
「あなたのためを思って」。その言葉が、相手が自分で選ぶ余地を、奪ってしまってはいないでしょうか。
助けているつもりが、いつのまにか相手を思いどおりに動かす関係になってしまうこともあります。相手を思ってのことが、行きすぎた自己犠牲になると、かえってお互いを苦しめてしまうこともあります。
消耗しきって、倒れてしまう
自分の限界を超えて走り続けると、ある日いっぺんに崩れてしまいます。
「急に、何もできなくなった」。そういう崩れ方をする人ほど、それまでずっと人のために動いてきた方だったりします。
こんなサインが出ているときは、医療機関へ
- 気分の落ち込みが、2週間以上続いている
- 眠れない、または朝どうしても起きられない日が続く
- 食欲が落ちる、または過食が止まらない
- これまで好きだったことに、まったく気持ちが動かない
- 人と関わること自体が、つらくなってきた
- 「消えてしまいたい」という考えが、ふと頭をよぎる
これらは弱さの証ではなく、心が限界の手前まで来ているサインです。
心療内科や精神科といった医療機関を頼ることが、回復へ向かう一歩になります。
病院にかかったからといって、その場で薬が始まるわけではありません。まずは状況を話してみるだけでも大丈夫です。
心と体の限界サインについては、精神的ストレスが限界を超えるサインと解消法でもくわしく紹介しています。
相手から、支配を受けている場合
誰かを助ける関係のなかで、こんな状況になっていないか、いちど確かめてみてください。
- 断ると責められたり、不機嫌になられたりする
- お金を、繰り返し求められる
- 恐怖を感じていて、離れられない
こうした場合は、我慢して済ませる話ではありません。
お住まいの自治体の相談窓口や、警察の相談専用電話(#9110)を頼ることができます。すべてを自分だけで判断しようとしなくて大丈夫です。
つらいときの相談先
ひとつの窓口で、すべてが片づくわけではありません。悩みの中身によって、使い分けていくことができます。
医療機関
眠れない、食べられない、気分の落ち込みが2週間以上続く。そうしたサインがあるときは、心療内科や精神科を頼ってください。
自治体の相談窓口
お住まいの地域の保健センター、あるいはこころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)でも、無料で相談を受け付けています。
職場の産業医・相談窓口
対人援助の仕事で消耗しているなら、働き方を見直すきっかけになることもあります。
カウンセリング
「どうしても人を助けるのをやめられない、この自分を何とかしたい」。そんなときに合っているのが、カウンセリングです。
診断や治療こそしませんが、話すことで気持ちをほぐし、整理していく場になります。
相談先の選び方に迷っている方は、ストレスの相談はどこにすべきか、誰にも言えない悩みの相談先も読んでみてください。
「助ける側」の人ほど、話す場所が必要です
ふだんから聞き役にまわっている人ほど、自分の話を聞いてもらう機会が、ほとんどないものです。
相談されることはあっても、自分から相談することはない
周りからは、いつも『しっかりした人』に見られています。だから、弱音を吐ける相手がいません。
そもそも人に頼ったことが少ないぶん、頼り方そのものが分からなくなっている、ということもあります。
「助けられる」経験そのものが、必要です
自分が受け取る側に回ってみることは、この傾向をやわらげるうえで、大きな意味を持ちます。
何かの役に立てなくても、ここにいていい。その感覚を取り戻していくことが、いちばんの回復につながります。
「なぜ助けずにいられないのか」が、見えてくる
一人で考えていると、その理由はぼんやりしたままです。
でも、誰かと話しながらほどいていくと、どんな出来事がこの癖を育ててきたのかが、少しずつ見えてきます。過去そのものは変えられなくても、今の背負い方のほうは変えていけます。
心の専門職のなかでも、公認心理師は日本で唯一の心理職の国家資格です。相手を責めたり急かしたりせず、必要なときには医療などの支援へつなぐ視点も持っています。
似た背景を持つ方は、アダルトチルドレンとは?カウンセリングの効果と相談先もあわせてどうぞ。
人のために頑張りすぎてしまうときは|オンラインカウンセリング「Kimochi」
「いつも聞く側で、自分が話す機会がない」
そう感じるときに合っているのが、オンラインで相談できるKimochiです。
オンラインカウンセリング「Kimochi」の特徴
- 国家資格を持つカウンセラーのみが在籍
Kimochiには、国家資格『公認心理師』を持つカウンセラーのみが在籍しています。資格や経験を持つ専門家が、気分の重さの背景にある気持ちを丁寧に整理する手伝いをします。
- 完全オンラインで匿名・顔出しなしOK
自宅にいながらビデオ・チャットで相談できるため、人目を気にせず、安心して利用できます。
- ライフスタイルに合わせて選べる3つのプラン
月1回30分の利用から、月4回60分でしっかり相談できるプランまで、自分のペースに合った形を選べます。初月割引もあるため、まずは試してみたいという方にもハードルが低くなっています。
- 24時間予約可能・ビデオもチャットも対応
仕事や家事の合間でも予約しやすく、声を出して話すのが難しいときはチャットでの相談も可能です。
ここでは、あなたが誰かを助ける側に回る必要はありません。
あなたのお悩みにそっと寄り添います。
もし体調にはっきり影響が出ているときは、医療機関への相談を先に考えてください。
よくある質問(FAQ)
Q1. メサイアコンプレックスとは、どういう意味ですか?
自分が誰かを救わなければ、という強い思いに突き動かされてしまう心の状態を指す言葉です。
「人の役に立てない自分は、良い人間ではない」といった思い込みにつながることもあります。
ただし俗称であり、病気として定義されたものではありません。
Q2. 医学的な病名ですか?
いいえ、違います。
精神科の診断基準にも、病名としては載っていません。
自分で決めつける必要はなく、自分の傾向に名前をつけて理解するための言葉として使ってみてください。
Q3. 人を助けたいと思うのは、悪いことですか?
まったく問題ありません。
見きわめのポイントは、相手が本当に望んでいるか、自分がすり減っていないか、見返りを期待していないか、そしてちゃんと手を止められるか、というところです。
自然な優しさは余裕のなかで出てくるものですが、この状態になると限界を超えても止まれなくなります。
Q4. なぜ、助けずにいられなくなるのですか?
その裏には、「自分なんて価値がない」という感覚を、人の役に立つことで埋め合わせようとする心の動きがある、と言われています。
だから、やめてしまうと、自分の価値のよりどころがなくなるように感じてしまうのです。
Q5. どうすれば、手放せますか?
これは「人助けをやめましょう」という話ではありません。目指すのは、自分に余裕があるなかで手を貸せるようになることです。
手を貸す前に『頼まれたかな』と確かめてみる、3秒だけ待つ、相手の課題をそっと本人に返す、断る練習を小さく始める。こうした小さな重なりが、助けになります。
Q6. 自分を優先しようとすると、罪悪感が湧きます。
それは、とても自然な反応です。
ですが、罪悪感を覚えることと、あなたの決めたことが正しくないことは、イコールではありません。
「今、うしろめたいんだな」と眺めるだけで大丈夫です。むりに行動を変えなくて大丈夫です。そのうしろめたさに慣れていくこと自体が、ひとつの練習になります。
まとめ
メサイアコンプレックスとは、「自分が誰かを救わなくては」という強い思いに突き動かされてしまう、心の状態のことです。
病気として決められたものではなく、あくまで俗称です。
その裏には、「自分なんて価値がない」という感覚を、人の役に立つことで埋め合わせようとする心の動きがある、と言われています。
だから、なかなか手放せません。手放してしまうと、自分の価値のよりどころが消えてしまう気がするからです。
でも、人助けそのものをやめる必要はありません。目指すのは、自分に余裕があるなかで手を貸せるようになることです。
手を貸す前に『頼まれたかな』と確かめてみる。3秒だけ待つ。相手の課題を、そっと本人に返す。断る練習を、小さなことから始めてみる。
役に立たない時間をあえてつくり、自分の『〜したい』を小さく確かめ、ときには助けてもらう側にまわってみる。そして、うしろめたさが出てきても、そのまま置いておく。
何かの役に立てなくても、あなたはここにいていい。その感覚を少しずつ取り戻していくことが、何よりの回復につながります。
あなただって、助けてもらっていい人なんです。